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銀河戦記/鳴動編

銀河戦記/鳴動編【携帯版】銀河を巡る英雄達の物語
銀河戦記/鳴動編 第一章・索敵 I
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    第一章 索敵


                        I

    「ミサイルです! 三時の方向」
     突然、オペレーターの声が艦内にするどく響いた。
     指揮官席そばに臨時に据えられたテーブルの上のサンドウィッチを頬張っていたト
    リスタニア共和国同盟軍フランク・ガードナー中佐は、突然の奇襲攻撃を受けたのに
    動揺しつつも、全艦に迎撃体勢を取らせるべく命令を下した。
    「全艦、戦闘体勢」
     宙を舞いながら指揮官席に飛び移るフランク。その途端、艦が激しく揺れて、危う
    く席から外れてしまいそうになるが、背もたれにしがみついて難を逃れた。
     パネルスクリーンには、漆黒の宇宙に浮かぶ艦隊が次々とミサイルの攻撃を受けて
    炎上していく様が映し出されていた。
    「三時の方向、上下角マイナス五度の方角に敵艦隊を確認」
    「距離、三・二光秒」
    「六時の方向より、敵戦闘機急速接近中」
     次々と報告がなされて、艦橋の空気は緊張の度合を深めていく。
    「艦首を敵艦隊に向けろ。往来撃戦準備だ。最大戦速で敵艦に向かえ」
     指令を受けてオペレーターが復唱伝達する。
    「面舵、九十度転換」
    「全艦、往来撃戦用意」
    「最大戦速」
    「こちらも艦載機を発進させては?」
     副官のピーター・コードウェル中尉が進言した。中肉中背でどこをとって特徴を述
    べることも難しいほど平均的な士官というところ。
    「無理だ。制空権を先手に取られた。艦載機を発進させるために着艦口を開けば、そ
    こを狙い撃ちされて、内部誘爆を招くだけだ。今は防御に徹するしかない。しかし発
    進準備だけはしておいて、いつでも出られるようにしておけ。高射砲で戦闘機を打ち
    落としつつ、敵が一時退却して体制を立て直す間隙をついて出撃させる」

     ややあってドアが開き、顎鬚を貯えた恰幅の良い軍人が、のそりと入ってきた。
    「先に見つけられてしまったか」
     それは、共和国同盟軍第十七艦隊司令官、アーネスト・トライトン准将であった。
     その冷静な態度は、幾度かの戦闘を乗り越えて来たものだけが持つ、重厚な落ち着
    きを持っており、彼が現れたことによる将兵達の表情の変化は、誰にも観察がたやす
    かった。それほど、部下の間では信頼に厚かったといえよう。
     これほどし烈極まるといわれる最前線の戦場は他にないという宙域の防衛の任にあ
    たっている。毎日が戦闘の連続であり、後方に戻らない限り休息する暇もないという
    激戦につぐ激戦で、艦船の消耗は全艦隊中最大である。ゆえに戦死する士官達も続出
    する一方でその分昇進のスピードも破格であった。今日の戦闘を生き延びれば、明日
    には一階級昇進していた。フランク・ガードナー中佐も、他の艦隊に所属していれば、
    同盟における平均的地位にすれば大尉くらいがせいぜいであっただろう。トライトン
    でさえ、准将中最年少であることも明白な事実である。とはいえ、激戦区を生き延び
    准将に昇り詰めるのは、よほどの運とたぐいまれなる才能との両方がなければあり得
    ないことなのである。
    「申し訳ありません。索敵の網からこぼれたようです」
     フランクは指揮官席を准将に譲りながら釈明した。
    「しようがないだろう。三次元宇宙をくまなく探すのは不可能だからな。敵艦隊の勢
    力分析図を出してくれ」
     トライトンは引き締まったその身体を指揮官席に沈め、スクリーンに目をやった。
     ほどなくスクリーンに敵艦隊の分析図が表示された。索敵レーダーの捕らえた艦影
    から、コンピューターが即座にその艦型と戦力を計算表示してくれる。
    「敵艦隊は戦艦、巡洋艦を主力とする約七千隻」
    「空母はいないのか?」
    「分析図から見る限りでは、見当たりませんが。後方に必ずいるのではないかと推測
    します。敵は第七艦隊のようですから、たぶんヨークタウンやエンタープライズが控
    えているでしょう」
    「それにしたって、フレージャーとてこれだけの大編隊の艦載機は、持ち合わせてい
    ないはずだ。となると前面の艦隊だけから発進したとは考えられない。艦載機はどっ
    ちから飛来したか」
    「六時の方角からです」
    「だとすると、そちらの方に別動の空母艦隊が待機しているということか……」
     トライトンの目は、スクリーンの艦隊六時の方角にあたる部位をしげしげと見つめ
    ている。まるでそこに空母艦隊の存在を確かめているかのように。
    「まさか、ナグモ空母機動艦隊ですか」
    「そうだ。そっちの方も気にかかるが、今は目前の敵艦隊に対処することが先決だ。
    全艦最大戦速で向かえ」
    「はっ。全艦最大戦速。進路そのまま」

     一方、同盟の前面に対峙する敵艦隊。バーナード星系連邦軍の第七艦隊所属で、旗
    艦ヨークタウンの艦橋では、F・J・フレージャー少将が指揮をとっていた。
    「敵右翼への攻撃が薄いな。通信士、ナグモあて電令『右翼への攻撃を増強された
    し』だ」
    「はっ。直ちに」
    「ナグモ達はよくやっているな」
    「はい、このままいけば制空権を確保している我が軍が勝てるでしょう」
     艦隊首席参謀のスティール・メイスン中佐が報告した。
     深緑の瞳と褐色の髪が畏敬をさそう。
     深緑の瞳を持つものは連邦でも数少ない人種であり、かつて全銀河を統一したアル
    デラーン一族の末裔を意味していた。
     今から四百年もの昔において、全銀河に繁栄した人類の中でも、アルデラーン一族
    は数ある小数民族の一つに過ぎなかった。彼らも元々は蒼い瞳を持つ部族であったが、
    ある日深緑の瞳を持つ子供が誕生した。それは突然変異であったのだが、成長したそ
    の子供はまたたくまに一族を統率し、さらには周辺の国々への侵略を開始して、つい
    には銀河の三分の一を治めるに至り、専制君主国家アルデラーン公国を建立したので
    ある。始祖ソートガイヤー大公の誕生であった。
     その孫のソートガイヤー四世によって全銀河統一されて以来三百余年の間に、深緑
    の瞳を持つ人間もその親族である皇族を中心として増えていった。すなわち深緑の瞳
    を持つものは、分裂し勢力が縮小したとはいえ現在も延々と続く銀河帝国の皇族達と
    どこかで血がつながっていることを意味していた。
    「このままいけば、勝てるか……」
     そもそも今回の作戦を立案したのは、深緑の瞳をしたこの参謀であった。ミニッツ
    がそれに賛同し、自らヤマモトを説き伏せてナグモの艦隊を借り受けたのである。
    「熟達したナグモの戦闘機乗り達にかかっては、トライトンも流石に手も足もでない
    というところです」
    「君の作戦にも見るところがあるが、それを実現してしまうミニッツ提督の采配にも、
    毎度うならされるな。ナグモなしでは机上の空論で終わってしまうところだったのだ。
    しかし、我が第七艦隊と第一空母機動部隊のナグモとを連携させるとはな」
     フレージャー提督が感心するのも、道理があった。同じ連邦軍とはいえ、多種多様
    な民族の寄せ集めであるミニッツらの艦隊と、単一血縁のヤマト民族を誇るヤマモト
    の艦隊とでは、相容れない溝の存在があったのである。ゆえに時として反目しあい、
    互いに戦功を競い合いながら、微妙なバランスの上に連邦軍は成り立っていた。
    「しかし、あのヤマモト提督がよくナグモを差し向けてくれましたね。ミニッツ提督
    とヤマモト提督は犬猿の仲だというのに」
    「同盟への全面侵攻作戦も間近だからな。ここで、貸しを作っておいて、侵攻作戦の
    総指揮官の椅子が自分に回ってくることを狙っているのだろう」
    「彼が構想を抱いているといわれる『聯合艦隊』の司令長官の椅子ですか」
    「そうだ」


    | SF小説 | 15:17 | comments(0) | - | - |
    銀河戦記/鳴動編 序章
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      作戦を立てることは誰にでもできる。
      しかし、戦争ができる者は少ない。
      なぜなら、状況に応じて
      行動することは
      真の軍事的天才だけに
      可能なことだからである。
      ナポレオン・ボナパルト


      序章

       銀河系は、肉眼でも観察されるように恒星や惑星や星雲などのように星間物質が重
      力収縮によって濃密に密集し形成された無数の星々によって構成されている。ところ
      がそれらの星々の間の一見何もないかのような空間にも僅かながらも重力収縮で残さ
      れた希薄な星間ガスが存在する。星間ガスは収束や拡散を繰り返しながら銀河面方向
      に流れている。ところが、銀河の中心には巨大な銀河ブラックホールの存在があり、
      それが及ぼす重力と銀河の回転により星間ガスの流れに波動が生じる。その波動によ
      って、銀河には星の密集した空間と星のない空間が渦巻状に並んで、腕とよばれる構
      造をなしている。
       この腕の発生は、地球上において重力・自転・温度差などの影響によって、大気が
      循環しジェット気流が蛇行して低気圧や高気圧の発生が促されたり、熱帯雨林帯・中
      緯度乾燥地帯などが発生したりすることを考えると理解しやすい。上昇気流の生ずる
      低気圧下では雲が発生し、下降気流の生ずる高気圧下では雲が消失する。これと同様
      なことが宇宙規模で恒星の発生と消失が繰り返されて、あの銀河の腕として観察され
      るのである。波動によって生じた衝撃波が恒星を消滅させる結果として、星のない空
      間が渦巻状にできるというわけである。地球のような球体表面上での大気循環では、
      緯度の変化によって雲の発生に違いがでるが、偏平銀河面ではそれが渦巻状に引き起
      こされる。

       人類が自分達の生まれた母太陽系を飛び出して、宇宙空間に進出しはじめた銀河開
      拓時代、人々は銀河の腕に沿って星々を渡り歩き、その生息域を広げていった。星を
      も消滅させるほどの衝撃波の存在や航続距離の問題によって、星のない空域は通常航
      法や当時のワープ航法だけでは航行不可能であったからだ。いわゆる大河の激流の中
      を丸太の筏で川を渡ろうとするようなものである。しかし、どんな激流でも浅瀬があ
      ったり淀んだ箇所が必ずあるように、人々は永い年月を経てついに航行可能な宙域を
      発見したのである。そこに誘導ビーコン灯台を設置したりしてより安全に航海できる
      ような工夫が随所に施されるようになった。それらの橋を拠点として銀河は開発され
      ていき、百年を経たないうちに全銀河に人類は行き渡ったのである。

       大河を渡る橋は、時として戦争の際には重要な拠点となる。
       やがて勃発した第一次銀河大戦において、橋を制するものが戦争を制すると言われ
      るとおり、それらの橋をめぐってのし烈な戦いが繰り広げられた。
       すべての橋を手中におさめて第一次銀河大戦を勝利し、全銀河を統一したアルデ
      ラーン公国の君主は、銀河帝国の成立を宣言し初代皇帝として君臨した。銀河帝国は
      およそ三百年の長きに渡って安定した基盤を確保していたが、大河を一瞬にして渡る
      ことの出来るハイパー・ワープドライブ航法とそれを可能にする新型ワープエンジン
      の発明によって、もはや橋は必要性を失い帝国の基盤も揺るぎはじめた。
       帝国暦三百五年、ついに第二次銀河大戦が勃発する。
       豊富な資源と経済力で力をつけてきたトランターを中心とした地方の豪商達が、帝
      国支配からの独立を企てようとし、これを阻止しようとして帝国軍隊を差し向けたの
      がきっかけである。一時的には鎮圧されはしたものの、豪商達は密かに賛同する地域
      を集めて共和国同盟トリスタニアを樹立し、軍隊を組織して帝国に反旗を掲げたので
      ある。
       戦いは三十年続き、資源と経済力で優位にあった共和国同盟は、強力な火器と高性
      能のハイパー・ワープドライブエンジンを搭載した最新鋭戦艦を続々と投入して、旧
      式戦艦の帝国艦隊に圧勝し、ついに独立を勝ち取ることに成功した。
       敗れた帝国はその弱体化をしめしたことで、やがて軍事クーデターを起こした将兵
      達によってさらに分裂、軍事国家バーナード星系連邦が誕生する。
       こうして銀河は、帝政銀河帝国と議会民主制共和国同盟と軍事国家バーナード星系
      連邦の三つに分裂したのである。

       それから十数年後、バーナード星系連邦と共和国同盟との間に戦争が勃発、以来百
      年の長きに渡って戦いが繰り広げられているのであった。


      銀河戦記I「銀河の波動」より抜粋



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